みなみのしま


「おはようございます。」
「おう!」
居候生活3日目。
私も仕事に慣れてきたある日。
「今日は台風だってさ。海も荒れてる。」
「そうですか・・・じゃぁ今日はお休みですね。」
「よし、じゃぁ今日中に伝票の整理とかしちゃおう。」
私達は今まで後回しにしていた仕事や家事を分担してやりはじめた。
そして、夕方になった頃・・・

「あのーっ!すいませーん!誰か居ませんかぁっ!!」
「う・・・梅沢くん!?」

一人の男が尋ねてきた。

プロローグ〜姉と弟〜

「どうぞ・・・」
「あ、すんません・・・」
私はお客さんにお茶を出して、その場を後にした。
どうやら込み入った話のようだ。
一歩がやりかけていた伝票を自分の部屋に持ち帰り、
話が終わるまで待つことにした。





「・・・美人なねーちゃんだな。」
「あ、あの人はさんって言って。
うちで居候しながら店の手伝いしてくれてるんだ。」
「そうか・・・」
「・・・で、梅沢くん・・・今日はなんの??」
「・・・おりいって頼みがある。―――――――――」

***

コンコン

「はーい。」
私の部屋のドアが鳴る。
さん、今いいですか?」
「どうぞー。」

ガチャっとドアが開く。
外には一歩ともう一人、先ほどのお客さんが立っていた。
「あ、ごめんなさい。伝票僕の仕事なのに・・・」
「いーよ。気にしないで。で?どうしたの?」
「実は明日からまた一人手伝ってくれる人が増えたんです。」
「はじめまして、梅沢正彦といいます。よろしくお願いします。」
「そっか、よかったじゃん一歩!梅沢くん、頑張ろう!」
「は・・・はい!!」

***

次の日。
「じゃぁ、それ運んでください。」
「お・・・おう・・・。」
「よいしょ。」
私達3人のお仕事が始まった。
目が回るような忙しさの中。梅沢くんも頑張って仕事に励む。
しかし、重労働がそんな長く持つはずもなく・・・。
「おお、お帰り!」
「ただいま、さん。」
「・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「・・・梅沢くん、大丈夫?」
「だ・・・大丈夫っすよ・・・。」
「・・・・・・・・・。」
3日目、すでに彼の体は限界だった。
「今日、頑張ってたもンね。帰ったらゆっくり休んでよ。」
「・・・あぁ、そうさせてもらうわ。」
「また明日!」
一歩がそう言うと、彼は手だけ振ってとぼとぼと帰宅した。
その後姿を見て、一歩の顔は暗くなる。
「・・・・・・一歩。」
「はい。」
「頑張ろうね。」
「・・・はい。」

***

次の日。
私は4時に起きて朝食の支度を始めた。
30分後には一歩が起きてくる。
「さて、今日も頑張りますか!」
準備を終えた私がクーラーボックスに氷を詰めていると。
ガラガラと、静かに扉が開いた。

「・・・梅沢くん!?」
「はは、おはようございます・・・。」
「どうしたの、まだ30分も速いじゃない。」
「・・・・・・さん。俺は最低な男っす。」
「・・・・・・は・・・・・・?」
「高校時代・・・俺一歩の事いじめてました。
一歩の顔見るたびに絡んで、パシリさせたり。
俺、まだ謝ってないんですよ。いじめてごめんな、って。」
「・・・・・・・・・・・・」
私は黙って梅沢くんの話を聞く。
「会社だって。本当は上司にどやされるのが嫌で。辞めた。
いつまでたっても、ハンパな不良から抜けきれねぇ。
昨日も。こんな辛い仕事やめちまおうって思った。」
「梅沢。」
今までに無く。低い声で彼を呼ぶ。
梅沢くんはビクッと肩をすぼめ、私に怯えた眼差しを向けた。
お構い無しに、私はクーラーボックスを2つ。彼に差し出した。
「やれば出来るじゃないか。」
「・・・・・・・・あざっす!」
彼は帽子を取って一例すると、私からクーラーボックスをひったくって、
外へ走っていった。
「根性あるじゃねーの。」
私は人知れずつぶやき、荷物の準備を続けた。

「ふぁ・・・おはようございますさん・・・。」
「おはよう。」
「荷物運び込まなきゃ・・・えっと・・・」
きょろきょろする一歩に私は人差し指を外へ向ける。
外を見ると、梅沢くんが最後の荷物を船に運び終えたところだった。
「遅せぇじゃんかよ。荷物これで最後だぜ。」
梅沢くんはそう言って笑う。
「一歩、いい友達もったな。」

++++あとがき++++

梅沢とこんな絡むつもりは皆無だったわけで。

2008/3/8