みなみのしま
俺がいつも通りにいつもの道を走っていると。

「フッ・・・フッ・・・フッ・・・」

いつもの場所で、腹筋してる彼女を発見した。

「よう少年。」
さんは腹筋しながら、そう言った。
「こんちはさん。ていうか少年じゃないし。」
「一郎くんだったっけ。」
「そうだよ。」
腹筋は続けられる。
俺も隣の腹筋台に寝転がって、腹筋を始める。
「ねぇッ・・・さんはッ・・・何のスポーツやってんの?」
「フッ・・・フッ・・・プロレスッ・・・だよッ・・・」
「プロレス?・・・女子プロレスラーって・・・事??」
「そゆことッ・・・!!」
話してる最中も全くペースが落ちないさん。
ただひたすら。ただ必死に。上半身の上下運動を繰り返す。
そして、「はぁー!200回イィィ!!!」と言いながら
最後の腹筋を終えるとそのまま“くてん”と台に寝転がった。
「ふぅー、よし次は走るか。一郎くんも来るか?」
「行きます。元々俺も途中だったし。」
「よーし、それじゃぁまた勝負だ!」
さんはそう言ってシニカルに笑った。

***

「・・・一郎くんは?」
「え?」
「何のスポーツしてるの?」
「俺はボクシング。」
「あぁ、そこのジムの子か。」
「知ってんの?」
「時々ね、前通るよ。川原ボクシングジムだっけ?」
「・・・鴨川・・・。」
「あ、さいですか。」
そう言って笑うさん。
「何でボクシングしてんの?
フツーって言うか、野球とかバスケは部活動でも人気だし。
今サッカーも結構流行ってるんでしょ??」
「・・・別に。自分のやりたい事に人気とか流行とか関係ねーし。」
「あはは、マイペースなわけだ。」
「俺は父さんが昔ボクシングやってたから。
他のスポーツにあんま興味持たなかっただけ。」
「へぇ、お父さんプロだったんだ。すごいんだね!」
普通の賞賛だと思ったけど、さんの表情はとても羨ましそうに見えた。
目の奥が輝いてると言うか・・・。
さんは?何でプロレスやってんの?」
「・・・んー・・・」
さんは少し考えた。
沈黙の中だと、一定のリズムを刻む足の音が嫌に大きく感じる。
刹那、くるりとさんは俺に顔を向けてにっこり微笑んだ。

「ナイショ!」

こけっ

「何だよそれ、ずるいぜ!!」
「えーだってー・・・」
「俺はちゃんと答えた!」
「うーん・・・」
はまた少し考え込む。
「何だよ、そんな恥ずかしい理由なの?」
「いやぁ、恥ずかしいというかなんというか・・・」
苦笑いするさん。
俺は首をかしげた。
「・・・よし。」
さんはそう言うと俺のうでをがしっと掴んで急に右に曲がった。
「うわぁっ!」
「じゃ、教えてあげる代わりにお手伝いしてもらうわよ?」
「えぇ?手伝い??」
「そ。お手伝い。」

***

さんは近くのスーパーでお菓子を大量に購入した。
2袋分のそれを、俺は1つ渡される。

「とりあえず、何があっても、この袋を死守してください。」
「???」

そしてわけの分からない事を言われ、また別の場所につれてかれた。

「・・・さくらんぼ学園・・・??」
「児童養護施設だよ。」
「・・・施設・・・。」
「ま、入りたまえよ。」
さんは入り口の格子の鍵を開け、中に入った。
「ただいまぁ!」
大声でそう叫ぶと、遠くからドタバタという音が聞こえた。
「おかえり!」
「お帰りなさい!」
10人くらいの子供が脱兎のごとくとびだしてきた。
全員さんにまとわりついて、彼女はそれを笑顔で受け止める。
姉ちゃん、そのお兄ちゃん誰??」
一人の女の子が俺を指差した。
さんはにっこり微笑むと、俺の横に来て、パンパンと手を叩いた。
「はーい皆注目!!
このお兄ちゃんは、お姉ちゃんのお友達、宮田一郎君です。
一郎お兄ちゃんです!!・・・一郎くん、自己紹介。」
小声でさんがいう。
「あ・・・宮田一郎・・・です。よろしく。」
子供達は皆きょとんとしている。
「みんな!挨拶!!」
「「「「「よろしくおねがいします」」」」」
パンとが手を叩くと全員大きな声で挨拶して、お辞儀をした。
そしてワラワラと俺たちは子供に囲まれた。
「一郎お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!何持ってんの?」
一人の子供が先ほど買ったお菓子の袋に手をかける。
「あ、これは・・・」
「あ、お菓子だ!」
「ホントだぁ!!」
「イェーイ!!」
がさがさと袋の中をあらされる。
小さい手なので、いとも簡単に袋の中へ侵入されてしまった。
「あっ・・・おい・・・」
「こーら!!!」
さんがそう言いながらがしっと袋を掴んで、俺から袋を取り上げると。
それを高く上げる。
「あっ!お菓子!!」
「ずっけーよ姉ちゃん!!」
「これは皆のもの!小春ママに預けます!!」
「えー!!食べたい!」
姉ちゃんのオニババー!」
「オニババーー!!!」
「鬼でもババでもない!!一郎くん、私ちょっと中行くから皆と遊んでて。」
「え・・・でも、俺ここの関係者じゃないし・・・。」
「だいじょうぶ!すぐ戻ってくるから。皆ちょっとここで一郎お兄ちゃんと遊んでてね。」
「「「「はーーい!!」」」」
「じゃ、よろしく!」

そう言って彼女はお菓子のしこたま入ったビニール袋を抱えて消えた。

「・・・どうしろってんだよ。」

子供に囲まれながら、思わず俺は小声でつぶやいた。

*****

「どう?感想は??」
「・・・疲れた。」
「ですよねーー!!」
「元気だな、さんは・・・。」
「いつもの事だからね。」
さんはそう言って笑う。
俺は一つの疑問が引っかかり、上手く笑えない。
聞いて良いのか、悪いのか・・・。
少し考えて、俺は決心を決める。

「あの・・・」
「ん?」
さんて、もしかして・・・」
「・・・うん。あそこが私のおうち。」

予想通りの答えが返ってくる。

「昔ね、両親が事故で亡くなってから、私はあそこで育ったの。
いつかな?何かイマイチ記憶無くってね・・・。
確か5歳とか4歳くらいだったと思うんだけど。」
うーん、と考えるさん。
「それから、ずーっとここで暮らしてる。」
「・・・そうだったんだ。」
あの時。
さんが羨ましそうな目をした意味と言うか・・・理由がやっとわかった。
「・・・あの子達ね。すっごい仲良くて。親孝行なんだ。
今日見たのは皆幼稚園児と小学生なんだけど。
あと中学生が2人居るんだ。14歳の女の子と13歳の男の子で。
この2人は子供好きでよく面倒見てるし。
施設の学園長・・・櫻木小春さんってヒトなんだけど。
皆小春ママって呼んでる。
園内全体が、本当に家族みたいなんだよね。
・・・でも・・・・・・・・・・」
さんの顔が曇った。
「施設が経営難でなくなってしまうかもしれないの。」
「えっ・・・!」
「この施設が無くなったら。
全員別の・・・他の施設に送られる。家族が・・・バラバラになっちゃう。
せっかく出来た新しい家族なのに・・・。」
さんの握り締めるコブシに力が入る。
「私はそんなの嫌。小春さんも、園のみんなも大好き。
だから、私はプロレスをやってる。稼いだお金を園に寄付してるのよね。」
「なんで、プロレスなの?他にも色々あるじゃん。
変な話・・・キャバクラとかの方が手っ取り早く簡単に稼げるでしょ。」
「・・・えへへ、なんつーかなぁ・・・。」
少し頬を赤く染めるさん。
「なんかさ、正義の味方みたいっていうか・・・子供達のヒーローになりたかったんだよね。
正義VS悪っていうのがプロレスの基本じゃない?ベビーフェイスとヒール。
園の子供達は、私が変身して悪いヤツをやっつけてると思ってるの。
もちろん、大きい子とかはもう分かってるけど。
夢があっていいじゃない??・・・なーんて・・・思ってるんだ!あーーはずかしー!!」
「子供って、ヒーローにあこがれるでしょ?『俺も●●レンジャーになりたい!!』とかさ。
そんな風に、子供達の希望とか目標になりたかったんだ。
だから、プロレスを選んだ。」
「・・・・・・・・・そっか。」
俺を見つめるさんの目はとても綺麗だった。
透き通った、とても綺麗な目。
暖かくって、とても明るい目。
輝いている、とても眩しい目。

この瞬間。

俺は。

この人に恋をしたのかもしれない。



++++あとがき++++

宮田。中学生宮田。
鷹村さんが青木&木村とケンカした時居た宮田は中学2年(簡単な計算上ね)。
小学6年くらいかと思った。
その時の宮田の口調を参考にした。
生意気なカンジで。

2008/03/03