みなみのしま


あれから、たちは順調に2つの関所を通過した。
残る2つも、無事に通過できん事を祈りつつ。
徐々に西岐に近づき、足取りは軽くなる。
太陽も真上に差し掛かり、一行は休憩を取る事にした。

「このまま何も起こらないと良いけど・・・。」
「・・・。」

太公望は何も言わなかった。
その無言からはなんとなく彼の考えている事を読み取る。
もし、次に刺客に襲われるとしたら、
それは西岐の手前の水関だろう。
あと一息、と油断したところで我々を一掃するはずだ。

あくまで、憶測にすぎないが。

さー!」
「・・・なによ?」

そこへ、天化がすたこらさっさと走り寄ってきた。
顔をあげ、立ち上がると同時に天化はの手をむんずと掴み、
そのまま引っ張ると元来た道を走り出した。

「ちょっ・・・!どこ行くのよー!!」
「いいから、黙って付いてくるさ!」

は有無を言わさぬ天化に引きずられ、
すぐ近くの林の中へ連れ込まれた。
歩調は徐々にゆるくなり、先を行く天化はどこか楽しそうだ。
いったい・・・どこへ連れて行かれるのか。

「あ、天化兄さまお帰り!」

たどり着いた場所には、すでに天祥がちょこんと座っている。
天祥が腰かけているそこは、切り立った崖で。
眼下にはとても巨大で、美しい滝が流れていた。

「ねぇ、見て姉さま!向こうに虹が見えるんだよ!」

天祥はそう言って無邪気に滝を指差した。
指の指し示す方向へ目を向けると、
うっすら、7色の光が弧を描いているのが見えた。

「うわぁ・・・きれい・・・」

はその光景に素直に目を奪われた。
絶壁から水が落ちる様もまた、壮大で美しく。
身を清められるような気持ちになった。

「いくらか、気分は晴れたかい?」
「へ?」

天化の言葉には首をかしげる。

「あーた、ここ数日ずーっと晴れない顔してたぜ。」
「・・・・・・」
「妲己や聞仲の刺客が追ってきているから。
が気を揉むのも分るさ。俺っちだって気がかりだ。
でも、もっと楽に構えてねぇと、いざって時力出せないぜ?」

天化はそう言ってニィっと笑う。
その言葉に、はすぅっと気が抜けた。
ぱちぱちと瞬きながら無言で天化を見つめる。
同時にぐいぐいとスカートのすそをを引っ張られた。
視線を下に移すと、天祥がにこにこと笑いながらにこう言った。

「天化兄さま、ずっと心配してたよ!
臨潼関からずっと、姉さまは緊張しっぱなしで苦しそうだって。
僕も、姉さまが笑ってる方が好き!」

天祥の言葉に、は少し顔を赤くする。

「天祥!余計な事は言わなくていいさ!」

天化はばしっと天祥をはたく。
はたかれたところをさすりながら天祥はちらりと私を見て、
照れ笑いを浮かべた。
そのやりとりがとてものん気で。
今までガチガチに考えを固めていた自分が
なんだかおかしくなって噴き出した。

「何笑ってるさ!」
「いや、ごめんごめん。」

私は天化に謝り、ゆっくりと天祥の横に腰をおろした。

「確かに、気負いすぎていたかもしれないなぁ・・・と思って。
私が皆を守らなきゃ、ってずっとずっと抱え込んで。
でも、天化も天祥もそんな事ぜーんぜんお構いなしで。
無邪気で、能天気で。
何してんだろ、私・・・って思ったらおかしくなっちゃったよ。」

は彼らに心配をかけた事を無性に申し訳なくなり、
同時に気にかけてくれた事がとても嬉しくなった。

「天化、ありがとう。」
「お・・・おう。」

照れているのか。
天化はから視線をそらし、
わざとらしく煙草をふかしはじめた。

「天祥も、ありがとう。」
「うん!」

は天祥の頭を丁寧に撫でてやった。





「おお、遅かったのう。」

太公望師叔と黄氏一族の視線は、林から出てきた達に集まった。

「ごめんね師叔。ちょっとそこまで景色を見に行ってたのよ。」
「ほう、デートか。」

にやりと師叔は意地悪な笑みを浮かべて天化を見る。

「茶化さないでよね。」
「天祥も一緒さ。」

はため息をつき。天化は天祥の頭をぐりぐりと撫でる。
師叔は「なんじゃ、つまらんのう。」と、
本当につまらなそうに言った。
武成王はそんなやりとりにクスクスと笑いながら、
後ろから無言で天化をどつく。

「親父まで何するさ!」

天化は振り返り、ムキになって怒鳴った。
黄氏一族はその様子を見て腹を抱えて笑っていた。

その時、はふと思った。
これからも、こんな風に笑顔が絶えないような。
そんな戦いをしたい、と。
どんなに辛くても、笑って乗り越えていきたい。
そう、思った。


++++あとがき++++

ここで一服というか。
まぁ原作に沿いますが空白の部分に
いろいろねじ込んでいくのが私式なので。
2人の仲良しシーンを盛り込んでおきます。
これでも僕的に甘いんですけどねぇ。
らぶらぶ小説なんて書くガラじゃねぇから
たとえ需要があっても書けねーよー。
とりあえずこれからもがんばります。
てーかバレンタインになにやってんだわしは。

2009/2/14