突然現れた緋色の少年は、なんの躊躇もなく臨潼関を破壊した。
は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「・・・なっ・・なんなのよアンタ・・・・」
が思わず声を荒げると、
少年はやっと気づいたのか、彼女に視線を向ける。
「・・・誰だ、おまえ。」
「私は、崑崙の道士よ。アンタこそ、一体・・・」
「ナタク!動くな!!」
と、下の方から張桂芳の声が聞こえた。
は「しまった!」と体を強張らせるが、
緋色の少年は何事もなかったの様に武器を構える。
「何の遊びだ?」
彼はそのまま張桂芳の持つ宝貝を攻撃し、粉々に破壊した。
・・・強い。は何がなんだか分らず。
その圧倒的な光景に舌を巻いた。
「桂芳さま!ここは私にお任せを!!」
そこへ、しゃしゃり出てきた風林が珠を放り投げた。
はすばやく翼閃で珠を回避する。
しかし、ナタクは何故か抵抗することなく珠に捕獲された。
「なっ・・・ナタク!!・・・どぅおぁっ!!」
は捕獲すれすれの所をなんとか避ける。
今、彼女は人の心配をする前に
自分の方をなんとかせねばならなかった。
落魂爪は超近接武器ゆえ、近づかなければ攻撃が当たらない。
が、この珠に関しては近づいたら最後・・・捕獲されてしまう。
なんと相性の悪いことか。
「だーっ!何か、良い方法は・・・・」
そんな事を考えていると
ドォオン!!
という音が聞こえ、間髪入れず、
「風林!!」という張桂芳の声が聞こえた。
まもなく、風林は魂魄と化し、封神台へと飛んで行った。
一瞬あっけにとられるが、
すぐにナタクが珠を破り、元の姿にもどった。
「なによなによ!まさか、あの珠を内側から破壊したわけ!?」
は信じられないと言わんばかりに顔を引きつらせた。
あの緋色の少年に、一体どれほどの力があるというのだろう。
とりあえず、攻撃もやんだのでは地上に戻ることにした。
「天化!武吉っちゃん!」
「さん!ご無事でしたか!」
「、体はちゃんと動くかい?」
「大丈夫・・・にしても、あのナタクとかいうヤツは一体・・・」
「ありゃきっと、噂の宝貝人間さ。」
天化の言葉には「なるほど。」と頷く。
「アイツがねぇ・・・」
は腕を組み、緋色の少年を見上げる。
瓦礫の中、風に髪をなびかせながらどこかを見つめているナタク。
恐ろしいほどの可能性を秘めている気がした。
ガラガラガラ
その時、ナタクの攻撃にとうとう
堪えられなくなった臨潼関は崩壊し始めた。
「ぬぅ、いかん!城壁が崩れ始めた!!ナタク!早く助けよ!」
太公望の声に、ナタクは珠をじっと見下ろす。
「知るか!そんな宝貝に捕まるような弱い奴は死ね!」
「・・・おい。」
聞いていたは思わずツッコミを入れた。
その後、太公望たちの捕まっている珠は、
武吉の素早い救出によって無事確保された。
こうして、残るは後始末は張桂芳ただひとりとなった。
しかし、辺りを見回しても張桂芳の姿が見当たらない。
混乱に乗じて、身を潜めてしまったようだ。
このままでは、いつどこから攻撃されるかわからない。
「どうしよう、天化、見失っ・・・
・・・って天化までいつの間にかいなくなってる!!」
いつの間にやら、天化はどこかに行ってしまっていた。
こんな協調性のかけらもない奴らばかりで
はたして、大丈夫なのだろうかと、は少し不安になる。
・
・
・
張桂芳は、ナタクの背後から近づき、
宝貝人間の「核」をえぐりだそうとした。
しかし、いつの間にかの横から消えていた天化は
張桂芳の後ろに回り込んでおり。それを阻止する事に成功した。
こうして、魂魄がまた一つ封神台へ飛んで行った。
「よ!俺っちは天化っつーんだ!よろしくな宝貝人間!!」
「・・・余計なことを・・・!!!」
「おーい!」
そこへ、武吉を抱えたが降り立った。
武吉の手には珠がしっかり抱えられている。
珠を地に並べ、天化とはそれを丁寧に破壊して
中の人たちを救出した。
「おおっ!!やった!元のサイズに戻ったぞ!」
「だらしねーなー師叔よ・・・何しに来たのさあんた・・・。」
「うるさいのう、ほっとけ。」
そんな中、は落魂爪で丁寧に天祥の入っている珠を破壊してやる。
「でられたー!ありがとうねーちゃん!」
「約束したでしょ。アンタ達を守るって。」
そう言ってやると、天祥は太陽のような無邪気な笑顔を返した。
も同じように笑顔を返すが、なぜか彼は恥ずかしそうに
おずおずと兄の天禄の後ろに隠れてしまった。
「?・・・どうしの?」
「天祥は末っ子だから・・・たぶん、まだ甘えたりないんだと思う。」
その言葉に、はクスッと笑って天祥を手招きした。
「おいで。」
「・・・・・・えへへっ!」
天祥は、少し様子を見てから、勢いよくに抱きついた。
まだ小さく、軽い天祥を抱き上げ、は彼の頭をやさしくなでる。
「おい、もういいだろう。」
その時、ナタクの一声に周囲が緊張した。
と天祥も思わずナタクに視線を向ける。
「?・・・なんのことだ?」
太公望が首をかしげる。
天化はため息交じりに腰から莫邪の宝剣を抜いた。
「あぁ・・・宝貝人間のやつ、
俺っちが余計なことしたってインネンつけてきたさ。
でも、親父やあんたを助けるのが先って待っててもらった。」
そう言って、天化が莫邪の宝剣を構える。
「いいぜ、来いよ!宝貝人間!!」
その言葉を合図に、2人は急に戦いを始めてしまった。
「あーあー・・・なにやってんのよ・・・」
は呆れて2人の間に割って入ろうかと思った。
その瞬間、抱えられていた天祥は彼女の腕を離れ、
2人の元へ駆け寄った。
「待って!天化兄さま!!」
「あっ・・・天祥!!」
「天祥!危ないから向こうに行ってな!!」
は天祥の後を追う。
天祥は、臆することなく2人の間に割って入る。
「もぉやめなよ!怪我したら俺いやだよ!
死んだ母様だって悲しむよ!!」
天祥の言葉に、ナタクがピクリと反応する。
「おまえ・・・母親が居ないのか?」
「う・・・うん・・・」
しゅんと落ち込んだ天祥に向けて、淡々とナタクは続ける。
「では今日は母親に免じてオレから引こう。」
「ほっ・・・本当!?」
意外すぎるナタクの言葉に、
を含め、天化達はものすごく驚いた。
太公望は「マザコン・・・」と一人ぼそぼそ呟いている。
「ありがとうナタク兄ちゃん!!」
天祥はというと、満面の笑みでナタクに飛びついて喜んでいた。
「あらら・・・早くもナタクに取られちゃった。」
「元気出すさ、には俺っちがついてるぜ?」
天化はそう言ってポンとの肩を叩いた。
++++あとがき++++
天化とは結構なかよしなんです。
天祥出張りすぎです。
ナタクともいちゃこきたいよね。
という感じで。まぁ、天化贔屓ですが。
2009/2/13