「武成王よ。」
「ん?」
「妲己の手下はやっつけたようだが。今度は聞仲が追手を出してこよう。」
その言葉に、黄氏一族の顔色が変わった。
も、すこし顔を強張らせる。
「急がねば、どしどし追ってが来る。
そうなっては厄介だ。急いでこの臨潼関を抜けるのだ!」
太公望師叔の言葉が終わるか終わらないかという時。
はその先の気配にいち早く気づいて、落魂爪を構えた。
「・・・・・・もう、遅いみたいだけど?」
その言葉に、全員に緊張が走る。
と、のすぐ横で黄氏一族の末っ子、
天祥がじーっと彼女を見上げていた。
それに気づいたは、
笑顔で彼の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「心配いらないわよ?
アナタもアナタの家族も、私達が守ってあげるから。」
天祥はその言葉に大きく頷くと、
「ありがとうねーちゃん!」と言った。
は「ねーちゃん」と言う響きが少しくすぐったくて、
同時に、どうしようもなく嬉しかった。
臨潼関の崩れた門の奥。
2つの人影は次第にこちらに近づいてくる。
「お待ちしておりました。」
「武成王の御一行。」
そして、僧侶のような恰好の2人が臨潼関の行く手をふさいだ。
「むぅっ・・・言った矢先にこれか!妲妃も聞仲もそつがないのう!」
まったくだわ、とは内心思ってはため息をついた。
「私は張桂芳。」
「私は風林。」
「聞仲さまの命により、ここで足止めさせて頂く」
はまず、張桂芳の持つメガホンに気がついた。
メガホン、という事は声や音に関係した宝貝に違いない。
「音」に関連した神経攪乱系宝貝なら自分の師匠も持っている。
もし、同じ系統であるならば・・・。
彼女はなんとなく、分が悪いなと感じていた。
「天化!おぬしにこれを与えておこう・・・」
「?」
が考え込んでいると、太公望が天化に何かを渡していた。
それに気づき、しばらく黙ってその様子を眺める。
「・・・・万が一のため、このマルヒアイテムを・・・・」
「何をナイショ話してるっスか!?」
後ろから四不象が一生懸命覗き込んでいるが。
の位置からは丸見えだった。
マルヒアイテムとは・・・すなわち耳栓の事。
音を防ぐアイテムとしてはあまりにも有名である。
「なるほど・・・やる価値はあるかもね。」
は布を耳に丸めて突っ込んだ。
あの耳栓に勝るとは思えないが、やらないよりはマシだろう。
「武成王!」
張桂芳の声に、みなが彼に視線を向ける。
「あなたが朝歌を裏切ったなんて、今でも信じられません。
他の誰が裏切っても、
あなたと聞仲さまだけは最後まで残ると思っておりましたから・・・」
「張桂芳・・・。」
「武成王、あやつらを知っておるのか?」
「あぁ・・・やつらは青竜関の総兵とその部下だ。
殷にはあいつらのように聞仲を慕い、
聞仲のために働く道士が山ほどいる。
中でも、あの2人は有名だが、
どんな奴らなのかまでは聞いちゃいねぇな・・・。」
そう言ってフッと武成王は笑った。
「そんな奴らを出してくるとは・・・
本気で俺を殺すつもりか・・・聞仲らしいぜ。」
「武成王・・・」
空を見上げて、武成王は何かを思う。
には、彼の気持ちはわからない。
しかし、代わりに。
この温かい人の力になりたいと。そう思っていた。
そして同時に、こうも思っていた。
「もし、私に父が居たのなら。このような人だったのだろうか。」
と。
「う〜む・・・あの二人の宝貝についてはわからぬか。
・・・では一つ、わしが先鋒となって様子を見よう。
この打神鞭も活躍を望んでおる!!」
そう言って、太公望は敵を見据える。
同時に、ひゅんっと懐から打神鞭取り出した。
「わき上がれ天!轟けマグマ!!
炎の男爵・太公望まいる!!!わーっはっはっはっは!!」
だばだばだば・・・
太公望はそう叫びながら敵めがけて走って行った。
「・・・師叔はどうしたんさ?」
「・・・さぁね?わかんない。」
と天化は何事か、と、茫然になりつつ。
太公望の背中を見送る。
眼前の敵、張桂芳はすーっと息を吸い込み、メガホンを構えた。
「太公望よ、動くなっ!!!」
「いっ!!!?」
名前を呼ばれた瞬間太公望は動きを止めた。
「何だ、止まっちまったぞ!?」
「なーんだ。その程度の宝貝か。」
自分の師が持つ宝貝に比べればまだまだ楽なものだと、
は一人、胸をなでおろして安心した。
「か、体が動かぬ・・・」
身動きの取れなくなった太公望めがけ、
風林が身につけていた数珠の玉を一つ投げる。
それはどんどん巨大化し、最終的には太公望を飲み込んだ。
「あれは、捕獲用の宝貝ね。
へぇ、2つ揃えてこそ力を発揮するってわけ。
まぁその程度ならなんとかなりそうね。」
「さ・・・悠長に分析してる場合じゃないぜ。」
そうこうしているうちに、
四不象も珠の餌食となり、捕まってしまった。
「なにやら騒がしいが・・・
吹き出しが小さすぎてよく聞き取れないな・・・」
「だが、この調子でいけば他の連中も簡単だ。」
ぱらっ・・・と張桂芳がどこからかメモを取り出した。
ギクッ
黄氏一族がフリーズした。
よもや、自分たちの名前がすべて知られているとは思わなかったらしい。
「天化。」
「!」
は天化の腕をつかんだ。
翼閃のスピードなら、
敵に気付かれることなく空へ逃げることが出来る。
どの程度防げるのかはわからないが、
耳栓をしていれば宝貝くらいは使えるだろう。
はそう考えていた。
張桂芳はすぅっと大きく息を吸い込む。
「黄飛虎・天禄・天爵・天祥・飛彪・飛豹・天化・黄滾・周紀・黄明・呉謙・竜環・!!動くなっ!!!」
ピタァッ
一瞬にして、全員の身動きが封じられた。
天化とを除いて・・・。
が、天化と違ってにはやはり、多少の影響が出ていた。
辛うじて身動きはとれるがきちんと言うことを聞いてくれない。
風林は珠をすばやく投げてよこした。
巨大化して、黄氏一族を飲み込む。
はどさくさにまぎれて天下を連れて上空へ逃げた。
「、大丈夫かい?」
天化の言葉に、はシニカルに笑う。
「まぁね・・・でも、体がきちんと言うこと聞かないわ・・・。
自分のタイミングで、私の手を放して、下に降てちょうだい。」
その言葉に、天化は小さく頷く。
「わかったさ・・・。」
下では名前の知られていない武吉がせっせと珠から逃げ回っていた。
天然道士だという少年だが、なかなかの力を秘めているようである。
宝貝相手に引けを取らない身体能力は
これからの戦いでかなり重宝するだろうとは感じていた。
「待ってろ、俺っちがあいつら倒してやるさ!!」
武吉が挟み撃ちにされた瞬間、の手から天化の手が離れた。
地面に降り立った天化は見事な剣技で珠を破壊する。
「へっへー、俺っちを忘れてもらっちゃ困るさ!」
「天化さん!」
「へっ・・・師叔め、ニクイことしてくれるぜ。」
そう言って耳栓を外す天化。
武吉と共に、敵と対峙する。
そんな様子を上空から見学していただが。
体は早くも動けるようになっていた。
「あのメガホン・・・効力は数秒〜数十秒といったところね。」
そう思いながら、は自分がどう動くかを考える。
敵にの姿は見つかっていない。
もしかしたら自分なら人質を奪還できるかもしれない・・・。
思考を巡らせていると、は自分の背後に妙な違和感を感じた。
振り返ると、すごいスピードで何かが飛んでくるのが見える。
しまった・・・新手か!?と身構えるが、
その人物はの真横までくるといきなり臨潼関を攻撃した。
ドゴォッ という物凄い爆発音が轟く。
そして同時に、爆風で瓦礫が宙を舞う。
「なっ・・・なっ・・・」
言葉にならないを横目に、その者はたった一言。
「全部破壊する。」
とだけ告げた。
++++あとがき++++
3人目の嫁登場しますた。
ナタクは原作の最後の衣装が萌すぎてヤバイと思う。
そして予告通り天祥が無駄にかわいさ発揮しとるよ。
ま、いっか。
2009/2/13