みなみのしま


物心ついた頃から、は仙人界で暮らしていた。
人間界における、彼女の両親や兄弟については全くわからない。
そう・・・いわゆる捨て子だったのだ。
しかし、運が良いことに。
は仙人骨のエネルギーを人一倍強く放っていた。

このまま見殺すのは惜しい・・・

ということで、崑崙十二仙が一人、霊宝大法師が
スカウト、もとい拾って崑崙に連れ帰った。
あれから二十余年。現在。
は落魂爪と呼ばれる宝貝を与えられ、接近戦とスピードに
定評のある崑崙でもそこそこ名の通った道士に育った。

・・・元始天尊様より伝令じゃ。」

そんなある日、霊宝大法師に呼び出された彼女は
一つの任務を言い渡される。

「何よ、マジメな顔して。」

は仁王立ちで、腕を組む。
自分の師匠を前にして、この様な態度を取る道士は早々居ないだろう。

「態度のデカさとふてぶてしさは相変わらずじゃな。」
「ほっといて!!」

が怒鳴るが、慣れっこなのか、特に気に留めた様子もなく。
霊宝大法師は話を続ける。

「西岐に居る太公望の元へ赴き、封神計画の遂行の力となれ。」
「・・・なに?それ。」

が首を傾げると、
霊宝大法師は細かく事の次第を説明しはじめた。
それは早い話。
太公望のサポートしてこい、という事だった。
「最近腕もなまっているし、良い運動になりそうね。」
と、は内心ワクワクした様子である。
霊宝大法師はさらに話を続け、
妲己や殷の現状と太公望たち西岐の動きを簡単に説明した。

「・・・よって、現在、黄飛虎が西岐へ向かっておる。
いずれ妲己・聞仲の追手が仕掛けてくるじゃろう。
お主はまず、黄飛虎の元に向かえ。」

この指令が、彼女の戦いのはじまりだった。


・・・


崑崙を降りる直前。
彼女は師匠から翼閃と呼ばれる飛行用宝貝を与えられた。
スノーボードの様な形をしていて、乗り方も同じような感じで使う。

これを使えば、すぐに黄飛虎のところへ行けるという。
はさっそくそれに飛び乗り、下界を目指した。

「乗り心地は悪くないわねー。」

髪をなびかせ、風を切りながら進む。

「お〜〜〜〜〜〜い!!!!!」

いざ、崑崙を下ろうという時、道中の岩山に人影を見つけた。
どうやら、を呼んでいるらしい。
このまま通り過ぎる事も出来ないので。
は律儀にも、人影の方へ翼閃を飛ばした。

「あーたがさ?」

岩山には、と同じくらいの齢の青年が立っていた。
黒髪で、鼻の頭に傷がある。

「そうだけど。」

がぶっきらぼうにそう言うと、
青年は「よかったさー!」と、大きく胸をなでおろした。

「・・・で?誰よ、あんた。」

は訝しげな顔で青年に目を向ける。

「俺っちは天化っちゅーんだ!」

青年の名前に、は「あぁ!」と思い出したように手をたたく。

「なるほどね。アンタが黄飛虎の・・・。」

話は聞いていた。
ともう一人、太公望の助っ人が居ると。
名前は黄天化と言い、その名の通り黄飛虎の息子だそうな。

「ま、知ってると思うけど。私はよ。よろしく。」

そう言って手を伸ばすと、天化も快く手を握り返してきた。
そして、握手を交わすと同時に、
彼はぽんとの肩を叩いてにんまりと笑う。

「じゃ、ちょっくら俺っちも連れてってくれ!」
「・・・・・・・・は?」

は思わず間の抜けた声を出した。

「俺っち、空飛べねぇから。頼んださ!」

そう言って笑う天化に、は大きくため息をついた。

「・・・仕方ない。」

天化の腕をつかみ、宙に飛び出す。





「なんか見た目がマヌケさー。」

ぽつりと漏れた天化の独り言だ。

「何よ、文句ある?なんなら、今ここで降ろすけど?」
「それは堪忍。」

天化は完全にに引張られる格好で宙をひらひらと舞っている。
何が悲しくてこんな貧相な登場をしなければならないのだろう。
は盛大に溜息をつきながら、目的地である臨潼関を目指した。

「なぁ。」
「なぁによ。」
「これ2人で座った方がまだマシな気がするさ。」

天化の指摘を受け。一瞬は考えて、はたと気付く。

「・・・おお!」
「気づくのが遅いさ。」

なるほどそうか。
と、はとりあえず天化を近くの岩に下し。
翼閃に腰をおろした。

「2人座るには小さいわね。」
「仕方ないさ。」

2人はぴったりと体を密着させ翼閃に腰掛ける。
先ほどよりかは、幾分かマシな見栄えになった。

道中、天化は自分が仙人界に来た時の話をにした。
そして、父を超えるために修行をしているという事も。

信念と野望を持ったこの青年は、
きっと戦いを経てどんどん成長するのだろう。

はそう思いながら
心の片隅でこの青年の家族への想いの強さに興味を持った。
彼女には、物心ついた頃よりそういった物が存在しなかったためか。
とても好奇心を煽られるようである。

「天化は兄弟がいるの?」
「兄と弟が一人ずついるさ。」
「ふーん、みんな男の子なのね。家族は仲が良い?」
「?・・・そりぁ、喧嘩はするけど、皆仲は良いはずさ。」
「そうなんだー・・・。」
「何だってそんな事聞くんだい?」

天化は怪訝な顔でを見上げる。
視線を空へ外し、はぽりぽりと頬をかいた。

「あぁー。なんつーか。私、父も母も兄弟も知らないのよね。
だから、単純に家族っていう物に興味を持っただけなんだけど。
・・・何か気に障ったなら謝るわ。」

そう言って笑うと、天化の表情が少し曇った。

「・・・そうなのかい。そりゃ俺っちの方こそ悪かったさ。」

この話をすると、特に年若い道士はこういった顔になる。
しまった、というか。触れてはいけないところに触れてしまった、というか。
そんな顔だ。
しかし、としてはただの興味本位なので。
そんな顔をされると逆に反応に困ってしまう。

「・・・あのね、そんな辛気臭い顔しないでくれる?
天化がとても楽しそうに話すから。
もっと聞きたいと思っただーけ。好奇心よ、好奇心。
だからそう、重く考えないでちょうだい。」

の言葉に天化は「わかったさ。」と頷いた。

そうこうしているうちに、目下に臨潼関が見えてきた。


++++あとがき++++

とうとう封神に手を出しましたね。
10年近くの時を経て。
もう今から新品でいろいろ手に入れる事が出来ないせいで苦労しました。
封神大全とかね。ブックオフが初めて神様に見えました。

2009/02/12